ちょっといい話

第2回

裁判員制度ってどんな制度?


■ひまわり君
最近、裁判員制度のことがよくマスコミで取り上げられるけど、いつから始まるんですか。

◆あおば弁護士
来年(2009年)5月までに始まります。だから、今年の12月頃には、君のところにも、「あなたは来年の裁判員候補者名簿に登載されました」という通知がくるかもしれませんよ。

■ひまわり君
もうすぐ始まるんですね。その「裁判員候補者名簿」というのは何ですか。

◆あおば弁護士
まず、毎年12月までに、普通選挙人名簿から無作為抽出で翌年の裁判員候補者全体の名簿が作成されます。これが裁判員候補者名簿です。そして、起訴されて 裁判になると、その裁判員候補者名簿からくじで選んで候補者を呼び出し、その中から裁判員を選任します。事件ごとに呼び出す裁判員候補者の人数は50 人~100人といわれています。

■ひまわり君
裁判員には資格は必要ないのですか。選ばれると、どうしても裁判員を務めなければならないのですか。

◆あおば弁護士
普通選挙人名簿に登載されている20歳以上の人であれば、誰でも裁判員になる可能性があります。ただし、「欠格事由、就職禁止事由、不適格事由」が定めら れており、国会議員、警察官、弁護士・裁判官等の司法関係者など、一定の職業の人は裁判員になれないことになっています。事件の関係者なども除かれます。 また、不公平な裁判をするおそれがあると裁判所が認めた人も除かれることになっています。
よく話題になるのは、そういう理由がなくても辞退できるかどうかということですが、70歳以上の人とか、重い病気やけが、近親者の介護の 必要、業務の繁忙などのためにどうしても裁判員を務めることができない人も、辞退を認められることがあります。しかし、意義のあることですし国民の義務で もありますので、頑張って務めてほしいと思います。

■ひまわり君
なるほど。ところで、なぜ日本で裁判員制度が導入されることになったのですか。アメリカの陪審制度は、映画やテレビでよく知っていますが、それ以外の国にもあるのですか。

◆あおば弁護士
市民が裁判に参加する制度には、大きく分けて、アメリカ、イギリス、カナダ、ロシアなどで行われている陪審制度(市民の陪審員だけで結論を出す制度)と、 イタリア、ドイツ、フランスなどの参審制度(裁判官と市民が話し合って結論を出す制度)がありますが、先進国はもちろん、世界の80カ国以上の国や地域で どちらかの制度を採用しています。例えば、G8に参加する国の中で市民参加制度のなかったのは日本だけです。むしろ、日本のような先進国に市民の参加制度 がないことの方が珍しいのです。
日本でも、戦前、大正デモクラシーの影響によって陪審法が制定され、昭和2年から18年まで陪審裁判が行われていました(戦争の激化によって、中断されました)。また、沖縄では、戦後アメリカの統治下で陪審裁判が行われていました。こういうことは知っていましたか。

■ひまわり君
全く知りませんでした。日本でも、陪審裁判が行われていたのですね。ではなぜ、今日本で裁判員制度が導入されることになったのですか。

◆あおば弁護士
裁判員制度は、2001(平成13)年6月に出された政府・司法制度改革審議会の意見書によって導入することになりました。
裁判に健全な社会常識を反映させて裁判をよりよいものにするということが第1の目的ですが、大きくいえば、これからの社会は公正でフェア でなければならない、そのためには司法がこれまでよりも重要な役割を果たす必要があり、司法や裁判をもっと身近で市民に根付いたものにしていく必要があ る、という考え方によるのだと思います。談合が厳しく摘発されたり、最近「企業のコンプライアンス(法令遵守)」が叫ばれるようになっているのも、同じ流 れだと思います。
また、陪審制度は「民主主義の学校」とも言われます。議論をたたかわせて市民が主体性をもって有罪・無罪を判断していくという裁判員制度は、とかく「お上意識が強い」とか「お任せ民主主義」といわれることのある日本の社会を変えていく契機になるかも知れませんよ。

■ひまわり君
全ての裁判で、裁判員裁判が行われるのですか。

◆あおば弁護士
いや、裁判員裁判が行われるのは、殺人などの重い刑事事件です。対象となるのは、2006(平成18)年では、全国で3111件、愛知県では216件でし た。この件数を前提にすると、1年で4400人に1人が裁判員を務めることになり、生涯1回でも裁判員を経験する人は80人に1人位ということになりま す。

■ひまわり君
多いのか少ないのか、どっちなのかなあ。ところで、裁判員は何をするのですか。

◆あおば弁護士
裁判員は、刑事裁判の審理に立ち会い、結審した後、裁判官と一緒に話し合って(評議といいます)判決を決めます。判決として決めることは、事実認定(有罪・無罪の判断)と量刑(刑の決定)です。
裁判員裁判は、原則として裁判官3人、裁判員6人で行うことになっていますが、争いのない事件などでは、裁判官1人、裁判員4人とすることも認められています。

■ひまわり君
しかし、素人が専門的な判断をすることができるんでしょうか。

◆あおば弁護士
裁判員に期待されているのは、専門的な知識ではなく、むしろこれまでの生活や体験の中でつちかわれた一般常識なのです。市民が裁判に参加する制度は、少数 の専門家だけで結論を出すよりも、より多くの市民が話し合って一般常識に基づいて出した結論の方が信頼できるという民主主義的な考えによるのです。陪審制 度は市民の陪審員だけで有罪・無罪の結論を出すのですが、裁判員制度は、裁判官も加わって結論を出す制度なので、不安を持つ人にとっては安心かも知れませ んね。

■ひまわり君
それでも真実を正しく認定することは難しいですよね。

◆あおば弁護士
「真実は神のみぞ知る」と言いますが、裁判官も含めて誰も、真実を完全に知ることはできません。このために、刑事裁判には、「証拠に基づいて判断する」ことと「疑わしきは罰せず」という原則があるのです。
刑事裁判では、検察官が有罪であることを証明する責任を負っています。裁判員は、「真実は何か」「検察官と弁護人のどちらの言い分が正し いか」ではなく、「検察官の主張が、証拠によって、良識に照らして疑問の余地がない程十分に証明されたかどうか」を判断すればよいのです。少しでも疑問が 残れば、被告人は無罪となります。

■ひまわり君
なるほど。少し気が楽になりました。ところで、裁判は、長くかかると聞いていますが、裁判員裁判になったらどうなるのですか。

◆あおば弁護士
確かに、今の裁判の中には長くかかる事件もあります。しかし、裁判員裁判では、裁判員の負担を軽くするためにも、できるだけ迅速に審理しなければなりません。
裁判員裁判では、「公判前整理手続」が行われ、事前に争点が整理されます。裁判員が参加するのは、その後に行われる公判です。公判の審理 は整理された争点を中心に集中的に行われることになっていますので、多くの事件は2~3日から数日で終了すると言われています。戦前の陪審裁判は、3日以 内に終了したのが95%、平均審理期間は1.7日と報告されていますし、アメリカの陪審裁判でも同じように報告されています。
刑事裁判が長くかかる大きな原因に、取り調べの問題があります。無理な取り調べによって作られた「調書」を証拠にできるかどうかをめぐっ て紛糾し、時間がかかってしまうのです。これをなくすためには、取り調べの模様を全部ビデオで録画することです。最近「取り調べの可視化」ということを聞 いたことがあるでしょう。ビデオがあれば、取り調べの状況をめぐって紛糾することはありませんので、裁判をずっと短縮することができます。イギリスやイタ リア、近くでは台湾などでもすでに採用されており、日本でも早く実施しなければなりません。

■ひまわり君
厳しい判決をすると、報復されたりしないでしょうか。

◆あおば弁護士
裁判員の氏名や住所などは公表されませんし、評議で誰がどういう意見を言ったというようなことは秘密とされます。また、裁判員(親族を含む)に対する威迫 (おどし)や危害は厳しく処罰されることになっています。さらに、特殊な組織暴力事件など裁判員への危害が心配される事件については、裁判員裁判の対象に 含まれる事件でも、裁判官だけで裁判することができることになっていますので、ほとんど心配はいらないでしょう。

■ひまわり君
裁判員制度の実施まであとわずかという時期ですが、まだまだ市民の関心は十分ではないようですね。

◆あおば弁護士
世論調査では、裁判員制度に対する理解は大分広がったが、裁判員として自分も参加したいという人はまだ多くないようです。私たち法律家がもっとPRの努力をしなければならないと思います。
しかし、実は、陪審裁判をたくさんやっているアメリカでも、自分が積極的に参加したいと考えている人は決して多くはないのです。しかし、 社会のあり方として市民が裁判に参加する制度は大切であり、これからも大事にしていくべきだ、自分が当たれば頑張って陪審員を務めようという人が多数派な のです。民主主義とは負担を伴うものであり、そういうものかも知れません。
日本も、ある程度の負担はあるけれども、せっかく誕生した市民の参加制度を大切な制度として受け止め、定着させていきたいものです。

■ひまわり君
よくわかりました。僕も会社で、上司や同僚に話をしてみます。

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