第1回
弁護士 山田万里子
離婚の相談に来られた女性の話を聞きながら、私はいつしかその話の中にわずかに出てくる小学6年生の男の子の気持ちになっていました。
そして、作った詩です。
お父さん?お母さん
お父さん?お母さん
ぼくいつも見てたんだ
いつか何か起こるって予感してたんだ
お母さん
ぼくらにいつも言ってたじゃないか
「一緒に遊びに連れて行ってくれればいいのにね」
「進学のこと一緒に考えてくれればいいのに」
「朝ぐらい一緒にご飯食べてくれればいいのに」
って―
だのに、お父さんには何も言わないで黙ってた
何も言わないのは仲がいいことなの
ちがうだろ
ぼくわかるんだ
黙っててもお父さんと心の中でけんかしてるって―
思ってることなぜ言わないの
なぜ話し合わないの
黙っているからよけいぼく心配だったんだ
いつか何か起こるって―
そのときはもう完全にだめなときだって―
お父さん?なぜお母さんと話さないの
道端に捨ててあった子犬のこと
先生がおこってチョークを投げたこと
給食のおかずを二回もおかわりしたこと
テストではじめて百点とったこと
ぼくはいっぱい話してきたよ
(でもこのごろお母さんのお顔見てると話せなくなったけど―)
なぜお父さんは話すことがないの
新聞を読みながらごはんだけ食べて
それじゃ?お母さんがかわいそうだよ
やっぱり?ぼくが予想してた何かが起こった
「子どもをだしにして本当は何が言いたいんだ!」
「言ったってわからないでしょ!」
お父さんとお母さんが
はじめて本当にこわい顔でけんかした
でも?二人ともまた黙ってしまった
お父さんもお母さんも体を震わしていた
なぜもっと前から言わなかったの
もっともっとたくさん言いたいこと言ってこなかったの
なぜずっと黙ってきたの
なぜ今度も黙ってしまったの
弟は大声で泣いただろ
ぼくだって二年生だったら泣きたかった
でも?ぼくは六年生なんだ
ぼくは絶対お父さんの味方はしない
お母さんの味方もしない
だって
ぼくらにはお父さんは一人しかいないんだ
お母さんは一人しかいないんだ
ねえ?お父さん?お母さん
話をしてよ
時々けんかしたっていいよ
でも?一度は一緒に笑ってよ