第31回
弁護士 山田幸彦
BS放送を見ていると、中高年向けの健康食品、サプリメントなどのコマーシャルが溢れています。巧みな宣伝に、ターゲット年齢層の私などは、つい「買ってみようか」と思ってしまいます。
弁護士の世界も、今や広告・宣伝が花盛りです。新聞広告はもちろん、電車内の広告、ラジオ・テレビ、インターネット、最近ではプロ野球ナイター中継のスポンサーにも弁護士事務所が登場するようになりました。
弁護士が広告・宣伝をするようになったのは、それ程昔のことではありません。かつては、広告・宣伝は原則として禁止されていました。弁護士は単に営利を求める職業ではなく、高度の専門知識と倫理感を持ち、困りごとや紛争の解決などを通じて正義、人権、公正、法の支配といった社会的・公益的利益に寄与(奉仕)する職業であるとされ、弁護士の仕事と広告・宣伝は相容れないと考えられていたからです。現在でも、ヨーロッパなどでは、弁護士の広告・宣伝を認めていない国も少なくありません。
それが、2000(平成12)年、広告・宣伝を原則自由化する方向に大きく転換したのです。その背景としては、アメリカ流の競争原理の導入が最も大きいと思われますが、市民からも、弁護士の敷居の高さ、情報不足を指摘する声が強くなってきたのです。弁護士という職業についての考え方が、公共奉仕的なものから法サービス業的なものに比重が移ってきたとも言えるでしょう。
このように、広告・宣伝の解禁からまだ16年しか経っていませんが、インターネットを開けば弁護士事務所の広告が溢れる時代を迎えています。私達が、インターネットでレストランを探すように、普通の市民が弁護士事務所を検索することができるようになりました。弁護士数の増加とあわせて、市民・利用者側からのアクセスが随分改善されたことは間違いありません。
しかし、問題もあります。その第1は、派手な広告・宣伝の割に提供される法的サービスの質(レベル)が伴っていない場合があることです。宣伝上手で「事件を集める」ことには長けていても、受任後の処理の仕方については芳しくない評判を聞くことも少なくありません。しかし、市民・利用者にとって弁護士に依頼することはそう度々あることではなく、自分が十分な質の法的サービスを受けることができたかどうかを判断することは容易ではありません。
第2の問題は、弁護士が、広告・宣伝に走る結果、社会的・公益的利益に寄与(奉仕)する職業であるというある種の「使命感」が薄れてしまうのではないかということです。それを失えば、弁護士に対する社会の信頼も失うことになるでしょう。
このように、広告・宣伝の原則自由化は、市民・利用者にとっても弁護士にとっても決してバラ色ばかりではありません。難しい時代になったと嘆いてもおそらく後戻りすることはないと思われますので、市民・利用者の皆さんは遠慮なくセカンドオピニオン、サードオピニオンを活用することが大切だと思われます。