第27回
弁護士 山田陽介
弁護士として刑事事件をやっていると、友人や家族から「どうして悪い人の味方をするの?」と質問されることがよくあります。
このような質問の中で「悪い人」とされているのは、多くの場合、凶悪犯罪を起こしたとして逮捕された人や、刑事裁判にかけられている人のことです。
しかし、そもそも逮捕された人や裁判にかけられている人が、皆「悪い人」なのでしょうか。
例えば、幼女誘拐などの凶悪犯罪を起こしたとして逮捕され、裁判で有罪になった足利事件の菅家さんは、新しいDNA鑑定によって無実であることが明らかになりました。
強盗殺人を犯したとして裁判で死刑判決を受けた袴田さんは、新しいDNA鑑定の結果などから「捜査機関が証拠をねつ造した疑いがある」とされ、再審の開始決定が出され、釈放されました。
彼らは、いずれも逮捕された当初は、犯人として大々的に報道され、国民のほとんどが「悪い人」と確信していたはずの人です。
それが、十数年、数十年もたってから「悪い人」でなかったことが明らかとなりました(袴田事件は検察官が高裁に即時抗告しているので、最終的な決着には至っていませんが)。
検察官も裁判官も、決して完璧な存在ではありません。
悪意をもって無実の人を犯人に仕立て上げるようなつもりまではなかったとしても、誤った使命感・正義感から暴走してしまうことや、些細な見落とし・思い込みから事実を見誤ることは、いくらでもあります。
逮捕された人や裁判にかけられている人を「悪い人」と決めつけることは、とんでもなく危険なことなのです。
刑事裁判は、「悪い人」を処罰する前提で開くものではありません。
「悪い人」かどうか分からないからこそ裁判をしているのであり、だからこそ、疑われた人の味方となってその人を全力で守る弁護人が必要なのです。
このようにお話をすると、
「でも、すべての刑事事件が無実を争う事件じゃないよね。」
「凶悪事件の犯人であることは認めながら、それでも刑が軽くなるように弁護するのはどうして?」
という声が聞こえてきそうです。
この点については、また次回、お話したいと思います。
(H26.9.9 弁護士 山田陽介)