第18回
弁護士 山田陽介
私たち弁護士は、職務上、「非行少年」と呼ばれる子どもたちと関わることがあります。
「非行少年」と言われるのは、犯罪行為やこれに類する反社会的行為をしてしまう20歳未満の少年・少女のことです。
私がこれまでに関わった「非行少年」の多くは、家にほとんど帰らず、バイクの窃盗、集団での暴走、ケンカ(暴行・傷害)などをしょっちゅう繰り返している少年たちでした。
今回は、彼らと関っていく中で、私が強く感じたことをお話ししたいと思います。
私が出会った非行を繰り返してしまう少年たちに共通する問題点は、
「楽しい」「気持ちがいい」「むかつく」「お金が欲しい」などといった直情的・衝動的な感情を抑えられず、人の迷惑や悲しみを考えられないところにありました。
彼らは、自分の行動によって傷つくことになる人の気持ちを思いやることができず、感情の赴くままに見境なく突っ走っていたのです。
彼らはなぜ、人の気持ちを思いやることができないのでしょうか。
私は、多くの場合、その背景には「家族をはじめとする他の人から大事にされる経験」の不足があるように思います。
他の人から大事にされるという経験に乏しい少年たちは、自分が大事な存在であるという実感を持てていません。そのために、他の人を大事にすること(人の気持ちを思いやること)の大切さにも気付くことができないのです。
彼らは、人の迷惑などお構いなしで、自分本位な気持ちにブレーキをかけられず、突き進んでしまいます。
では、こうした少年たちを、どうしたら立ち直らせることができるのでしょうか。
「被害者の気持ちを考えてみなさい!」
「自分がされて嫌なことは、他人に対してもするな!」
このような説教をするだけでは、おそらく何も変わらないでしょう。
彼らは、人を大事すること(思いやること)の大切さを理解できないのですから。
逆説的かもしれませんが、私は、本当に彼らを変えるためには、愛し続けること、つまり「自分は大事にされている、愛されている」という実感を与えることが必要だと思うのです。
「自分は他の人から大事に思われている」という実感、安心感を経験させることで、彼らの中にも少しずつ「人に対する思いやり」の感情が芽生えてきます。
そうなってようやく、彼らはこれまでの自分の行動のせいでどれだけ多くの人が傷ついたのかを考えられるようになり、反省できるようになるのです。
「君はたくさんの人に愛されている」
「君には良いところがたくさんある」
「君には可能性がある」
一見すると、少年を甘やかしているだけに聞こえるかもしれません。
しかし、実は、こうした言葉こそ、少年が立ち直るきっかけ、出発点になっていくのではないでしょうか。
(H24.12.12 弁護士 山田陽介)