第4回
弁護士 上田敏喜
息子が通う小学校の6年生を引率して、裁判所見学をしている。今年で4回目だ。裁判員裁判で使用される大法廷で、刑事事件の模擬裁判をしている。
子ども達には、「恥ずかしがってはいけない。その役になりきって楽しくやりなさい。」と話している。
裁判長役の女の子が、凛とした声で、「被告人、前へ。」と言い、裁判が始まる。コンビニ店での強盗致傷事件だ。
被告人役の校長先生が弱々しい様子で前へ出る。
「被告人、名前は何と言いますか。」
最近「法教育」という言葉を耳にする機会がある。
新学習指導要領では、小学校で「法や決まりの意義を理解すること」「相手の立場を理解し、支え合う態度を身に付けること」、中学校で「契約の重要性」「裁判員制度」などを学ぶとされている。
法教育とは、法律=決まりそのものを覚える教育ではない。法的な考え方を身につけるための教育である。
法=決まりによって縛られているように感じることもある。
「ゴミを出すのは、朝8時から。その前に出すのはダメ。」
「ケータイしながら運転するのはダメ。」
社会では、たくさんの人がいて、一緒に暮らしている。人それぞれに考え方が違う。考え方の違う人が一緒にいて、それぞれが自分の思うように行動したら、相手に迷惑をかけてしまうこともある。
そこで、決まり=法が必要になる。
決まりは、人と人がお互いに暮らしやすくするためのアイテムである。
決まりは、決まっているから「決まり」ではない。決まりとは、みんなで話し合って、人と人とが暮らすやすくするために、みんなで決めるアイテムである。そのことを、子ども達に、少しでも分かってもらいたい。
そんな思いを持ちながら、子ども達の裁判所見学の引率をしている。
? 模擬裁判では、子ども達が、裁判官、裁判員、弁護人、検察官、被告人、証人など、それぞれの役を演じる。
そして、被告人を刑務所に入れるべきなのか、それとも、今回に限って刑務所に入れないでおくのかを考える。
それぞれの立場で、自分で考えて、判断する。決まった答えがあるわけではない。自分の頭で考える。どちらが正解というわけではない。
「私は、強盗なんだから、刑務所に入れるべきだと思う。」
「でも、僕は、ケガも軽いし、うばったお金も戻ったから、今回は刑務所に入れなくてもいいと思う。」
「法廷に来たお母さんがかわいそう。」
「ケガをした被害者のほうがつらいし、怖い思いをしたよ。」
社会にはたくさんの決まりがある。
でもその全てが本当に正しいものなのか、中には、間違っている決まりもあるのではないか。
子ども達には、法的なものの考え方を身につけてもらいたい。
「三つ子の魂百まで」ということわざがある。頭の柔らかなうちに、裁判所で裁判体験をすることに意味はあると思う。
弁護士として法廷で仕事をしているかもしれない。ここでの経験が、将来弁護士になるきっかけになれば、うれしい。
みなさんも法廷へどうぞお越し下さい。
私が案内します。
愛知県弁護士会や名古屋地方裁判所でも法廷案内をしています。どうぞご利用ください。